大手チェーンの二律背反—なぜ「柔軟な働き方」は現場の疲弊を招くのか?
大手薬局チェーンは、育休制度の充実やパートタイムでの積極的な登用を「柔軟性」として掲げ、優秀な人材の獲得を目指しています。
これは「働き方改革」の観点では非常に正しい姿勢です。
しかし、この「柔軟性」の推進が、「長期の継続的なケア」を求める国のかかりつけ薬剤師制度と摩擦を起こし、
結果として現場の常勤薬剤師に過度な負担を集中させてしまうことも…
本記事では、この人事戦略と医療政策の間にある構造的なリスクについて
個人の視点から分析していきます。
✔ 構造的課題の分析: 大手薬局の人事戦略(異動・多様な雇用)が、国の医療政策(継続的なケアの要求)とどのように摩擦を生んでいるか
✔ 負荷の集中メカニズム: パート比重の高さや育休制度の充実が、結果的に常勤薬剤師の業務負担を増加させてしまう構造的な理由
✔ 信頼関係への影響: 異動慣行が、患者との信頼関係の継続性と薬局経営に与える現実的な影響
✔ 政策の矛盾点: 24時間対応の要求が、働き方改革の理念と現場の労働環境に及ぼす影響
企業の「柔軟性」が常勤薬剤師に集中させる負荷
大手チェーンにおける人事戦略の柔軟性は、
結果として、少数の常勤薬剤師に大きな責任の偏りを生じさせています。
- パート比重と要件の制約:
パート薬剤師の登用は人件費の柔軟な管理に有効ですが、その多くは勤務時間の制約から、
かかりつけ薬剤師の要件(週32時間以上の勤務、長期在籍など)を満たすことが困難です。 - 負荷の集中:
必然的に、かかりつけ機能の責任や薬局全体の管理業務、そして後述する24時間対応といった責任が、
数少ないフルタイム(常勤)薬剤師に集中してしまいます。
某大手では、店舗によっては時給が3000円とパート薬剤師では破格な条件な為、
管理薬剤師のみフルタイムで他全員パート薬剤師なんていう店舗もありました。
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異動慣行が招く「患者の不信」と収益リスク
大手薬局の広域な異動慣行は、人材育成や店舗間の人員調整という企業側の論理に基づきますが、
これが地域の医療継続性に少なからず影響を与えています。
- 信頼関係:
薬剤師が頻繁に入れ替わると、患者は不安を感じます。
私が某大手の近くの中小薬局で働いていた際、
「あそこの大手はすぐスタッフが変わるから不安なのよね」
といった事を話す患者が何人もいましたね。
その大手から流れてきた患者さんは何人もいましたね。
- 患者離脱リスク:
この不信感は、患者が顔なじみの薬剤師が定着している中小薬局などへ離脱するという行動に繋がりかねません。
つまり、人事の柔軟性を追求した結果、企業の長期的な収益源である
「かかりつけ患者」を競合に手放すという、リスクを抱えることになります。
- 業務の非効率性の増幅:
また、非効率な業務プロセス(【第一部】参照)が残る中で異動が行われると、
新任薬剤師の習熟と常勤薬剤師の教育負担が増し、現場全体の負荷をさらに増幅させてしまいます。
働き方改革と逆行する「24時間対応」の重圧
構造的矛盾の最たる例が、国の政策が要求する「24時間対応」の重圧です。
- 政策の二律背反:
一般企業では厳格な残業規制が敷かれる中、薬局はかかりつけ薬剤師制度を通じて、
夜間・休日を含む常時対応できる体制を義務付けられています。
- 労働法との摩擦: 医療の質という大義名分のもと、常勤薬剤師は私的な時間における緊急対応が必要とされています。
勿論、医療の枠組みに入っている以上必要なことでもあります。
しかし、常勤薬剤師の「休息の権利」を奪ってしまう場合もあり、疲弊を加速させています。
まとめ:理想を阻む「構造的な課題」の理解へ
結論:理想と現実を隔てる「二重の摩擦」
この連載(一部と二部)で明らかになったのは、薬剤師の理想的な働き方と、質の高い継続的な医療の実現を阻む、二重の構造的な摩擦です。
- 業務上の摩擦(第一部): 求める対人業務と、簡素化が進まない対物業務の非効率性。
- 人事上の摩擦(第二部): 企業の「柔軟な雇用・配置」と、医療の「継続性」という異なる目標の衝突。
目指すべき方向性
これらの摩擦は、現場の疲弊や患者の不安を生み出す根源となっています。
今後、持続可能な薬局の未来を築くためには、少数の献身的な努力に頼るのではなく、
この二重の構造的な課題を現場以外も深く理解し、
人事制度と業務プロセス双方から再設計していくことが必要なのかなと感じています。


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